アトリエ白美「渡辺肖像画工房」 渡辺晃吉
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- 平成13年6月28日(木曜日)
【晴】
画室への行程の3分の2あたりだろうか。山川山小路という地区をぬける道が、毛野という地区にさしかかる手前に、自転車にして30秒足らずの長さで、片側が崖になっている場所を通りぬける。
崖の上ギリギリまで群生している雑木の枝が、ひさしのように道の上に張り出し、程好い日影を作っているだけではなく、いつも涼しい風が吹きぬけているので、道中もここにさしかかると、ほっと一息つけてありがたい。その上、名は知らないが枝いっぱいに淡黄色の小さな花を付けて、あたりにほの甘い香りをふりまいている木が数本、もう何週間も咲いている。
その木の下の道は花の絨毯になっていて、そこからも爽やかな甘さが香ってくるようである。
暑さで汗だくの身に、日影と涼風と甘い香りのもてなしにあずかれる、かけがえのない30秒間である。
ここから先は、最後までのぼり道がつづく。
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- 平成13年6月27日(水曜日)
【曇時々雨】
途中で資材店に寄り、エアーパッキンを一巻仕入れるが、1200×42の寸法で、経が50cm近いロール状になっている関係上、自転車での運搬は無理と言う店の人の忠告を聞かず、ヒモをもらって前のカゴの上に悪戦苦闘して縛りつけたまでは良かったが、翼が極端に前についた飛行機を、思いきりマンガチックにしたようなスタイルになってしまった。
仕方なく乗り出したが、通りすがる人からはよほど奇異に映るのか、じろじろと見られるは、車は慌てて端によるはで、大騒ぎの末やっと画室に辿り着いた。途中からはさすがに恥ずかしくて、早く着きたい一心で懸命にペダルをこいだので、全身汗みどろ。
昨日に続く今日の災難であった。
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- 平成13年6月25日(月曜日)
【曇時々雨】
高温多湿、おまけに無風という最悪の条件に、とうとうエアコンを使用する事になった。
夏でも昼間はほとんどエアコンはいらないのだが、今日のように汗がだらだら流れる日は、仕事に差し支えが出るため、やむを得ずスイッチを入れる。
と言ってもほとんどは除湿だけで冷房にする事はほとんどない。
それでも昼過ぎにはスイッチを切り、いつものように戸を開け放ってしまった。
多少暑くても開放感がある方が良い。
午後3時過ぎにオークション出品作が2点、今日落札予定との報を持って長男来室。
つたない写生画ではあるが、描き込む心情に偽りは無い。
その心情に共感するからこそ落札してくれるのだろう。
感謝感謝。
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- 平成13年6月20日(水曜日)
【曇】
もう大丈夫と思って画室に向ったが、足に力が入らずやっとの思いでたどり着いた。
一息ついても汗が止らず脱力感が激しい。
母屋で薬をもらい、しばらく安静にしたあと、仕事を諦めて帰ることにする。
少し元気が戻っていたので、庭のフキを少しつんで帰り道にY氏のお宅に届ける。
少し休ませてもらい、雑談したが話のはずみでカメラを一台いただく事になって少し驚く。
ありがたく頂戴して家に向った。
意識が少しもうろうとしているのは熱のせいだろうか。
汗がひたいから流れ落ち、背中がぐしょぬれなのが分る。
帰宅後汗をぬぐい、下着を着替え指示通りの薬を服用して横になる。
人間は生身だなとつくづく感じた。
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- 平成13年6月18日(月曜日)
【晴】
朝、画室へ行く前に家内のいとこのY女史の個展に足を運ぶ。
早かったので誰もおらず、ゆっくりと鑑賞することができた。
女史は「春陽会」所属で、ここ数年連続入選を果している。
画歴は非常に長く、両親とも芸術的感性の豊かな人であったことを考えると、女史の中にもその血が脈々と流れているのかもしれない。
画家を目指したが事情で美容師となり今に至っている。
来月末、今度は義弟が2回目の個展を開くそうだ。
皆それぞれに精一杯はばたいている。
その義弟が贈った生花が、ひときわ華やかに入口を飾っていた。
芳名簿に署名し、名刺の裏にメッセージを残して、贈り主の名札も鮮やかに並ぶたくさんの花を背に会場を後にする。
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- 平成13年6月17日(日曜日)
【晴】
本当に久し振りだが、丸一日休みをとってくつろいだ。
たまたま今日は「父の日」という事で、自分へのささやかなプレゼントといったところか。
朝のうちにA氏から電話があり、旧交を暖める機会を得た。
後日アトリエでの再会を約して受話器を置く。
隣家の梅の古木が、今年もたわわに実を付けたが、今日はその収穫の日なのか、開け放った窓からその様子がさまざまの音で飛び込んでくる。
午後、実家から戻った妻の手土産のビールで喉を潤す。
つまみのグリンピースの塩味が絶妙であった。
時折アトリエの事が頭の隅をよぎるが、つとめて考えないようにする。
年に何回もないフルタイムの休日も、黄昏てきた。
「ちょっと来い、ちょっと来い」と、コジュケイが鳴いている。
ささやかな量だが、少し酔ったようだ。
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- 平成13年6月15日(金曜日)
【雨】
肌寒いので長袖にし、一枚多く重ね着して家を出た。
仕事についても雨足は途絶えず、午後になって少し強まる。
遠望すればこの谷は、煙霧の中に霞んでいるのだろうか。
風は途絶え、木々は眠るかのようにわずかに枝を揺らし、鳥は鳴かず、外には行く人の気配もない。
雨音は静寂を深めて、画室はさながら禅堂の佇まい。
心は静まり、筆を持つ手に伝わる感触が、いつになく鮮明なのに、かすかな驚きを感じている自分がいる。
なぜか感覚は研ぎ澄まされて、視覚さえ鋭敏になっているのがよくわかる。
集中するでもなく集中し、くつろぐでもなくくつろぎ、持続するでもなく持続し、ただ時の波間にたゆたっていく。
訪れる人もなく、沈黙の中に自我が沈んで、今まさに在るがままに在る。
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- 平成13年6月14日(木曜日)
【雨】
道の途中にある廃校となった小学校の塀の上から、夾竹桃の花が雨に打たれ、うなだれたように道路の上にはみ出している。
まだ市街地なので、道の端を走らねばならず、首をすくめながらその下を通り過ぎるのだが、この花には雨は似合わないようだ。
それとは対照的に、この時期いたる所に咲いている紫陽花ほど雨が似合う花はないだろう。
学校の東南の角にある居酒屋の前に、店の主人が丹精したあやめの鉢が見事な花を咲かせているのだが、あちこちで無造作に花をつけている紫陽花には、その彩りもさることながら、気迫においていまひとつおよばない。
葉の一枚一枚がピンと張り詰め、まるで裃を着たような緊張感で花を支え、花はあくまで瑞々しく色濃く鮮やかで、それでいて慎ましい。
特に白い花の何と白いことか。白は色ではないが、それだけに無限の色調を帯びて輝き澄み切っている。
雨の朝、至福の時が流れ、当る雫が顔に快い。
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- 平成13年6月13日(水曜日)
【曇】
写生レッスンの場を何度か行き来していた婦人が、意を決したのかのように自転車を止めると近付いてきた。
長い間油彩を描いているので関心があるとの事であった。
結構多趣味で充実した毎日を過ごしているのだが、できれば絵一筋に絞りたいと考えているのだそうである。
ご主人と二人暮しで、毎年あやめ、しょうぶを育て、友人知人を招待しては酒盛り三昧なのだと、嬉しそうに話してくれた。
後日画室を訪ねたいというので快諾し別れる。
間もなく柔和な老紳士が声をかけてきた。
水墨画を始めたので参考に見学させて欲しいのだそうだが、くわばらくわばら。
かえってテスト中の学生のように緊張してしまった。
いつになっても人に見られるのは恥ずかしい。
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- 平成13年6月12日(火曜日)
【曇】
植え渡された早苗が整然と力強く根を張り、折からの風にそよいで、波立つ水面に姿を映している。
まだ植え込みの済んでいない田には、早朝から人が出て、農作業は今が盛り。
少しづつ段を重ねて行く谷の田は、周囲の山々を映して次第に高みへとのぼり、やがて緑の中にとけ込んで行く。
田の主の遊び心か、燕子花が濃紫の花をなびかせて、所々に群れ咲いているのも楽しく、自転車を降りて眺めていると、わきで仕事をしていた老婦人が、何本か切り取って持ってきてくれた。
「お待ちなさい」言葉少なに差し出された花を思わず受け取り一言礼を言って、慌ててその場を辞した。
何故慌てたのかよくわからないが、何となく後ろめたいような気がしたのだ。
次に会ったら、もっと丁寧にお礼を言おう。
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- 平成13年6月11日(月曜日)
【晴】
仕事の切れ目に、近くの切通しの写生に出かける。
国道50号線が足利の東部にさしかかって、低い屋根を迂回せずに直進するために、いくつかの坂道ができている。
国道の南側の斜面から、その先の平野部に点在する集落が、低く狭い小さな切通しのある間道で国道に繋がっているのだが、大抵は坂の途中に出るようになっている。
そのためか、けっこう急な角度で平野部に下がって行く様子が面白い。
国道から一歩それて入って行くと、嘘のような静寂に包まれた空間がそこにはあった。
建ち並ぶ家の大半は、さすがに現代風のものに変ってしまったが、それでも街道に影を作る古木や屋敷林、風雪に耐えた木肌をさらす農具小屋など、往時をしのばせる佇まいが、いたる所に残っている。
土地の人達の迷惑にならぬようにクイックスケッチして、早々にその場を引き上げ帰路につく。
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- 平成13年6月9日(土曜日)
【晴のち曇】
朝、出掛けにオバのもとを訪ねる。
しばらく顔を出さなかったので心配しているだろうと思ったら、案の定であった。
オバの話に付き合っているとイトコが入って来て賑やかになった。
最初は早々に引き上げるつもりが、結局昼食までごちそうになり、再訪を約して辞去する。
オバは86歳。数年前にオジに先立たれ、今は長男の家族と同居している。
無類の読書好きで、本に囲まれた日々を送っている。
悪意のかけらもなく、善意に着物を着せたような人だ。
豊かな知性と深い知恵は、未だ衰えを見せず、感性にもかげりが無い。
死を恐れず、かと言って生にも絶望していない。
日々をあるがままに淡々と生きる姿は見事である。
今日誕生日を迎えた。この一年に祝福を。
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- 平成13年6月8日(金曜日)
【曇のち雨】
画室の庭と前の畑とのさかいにある何本かの梅の木が、涼しそうな日陰を作っている。
根元には一面にフキが茂り、その上をたえず吹く風が、うちわのような葉をそよがせて、画室の中を通り抜けて行く。
フワっと甘く香しい香りが風に運ばれて来た。思わず「あっ…」と声をもらしてしまったが、この香りはどこから来るのだろうか。
そうだ、この香りは地に落ちた梅の実が、降る雨にも助けられて、自然発酵している香りなんだとすぐに気付く。
あくせくと時を重ねている内に、季節はもうこんな所まで来ていたのかとしみじみ思った。
飯をノドにかき込むような、あわただしい昼食の折の事であった。
そう言えば今日は現年令最後の日。
明日からはひとつ年を重ねた一年が始まる。
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- 平成13年6月7日(木曜日)
【晴のち雨】
画室に入ると、昨日焚いた蚊取線香の臭いが、まだうっすらと残っていて、夏の到来を知らされる思いであった。
オークション落札者への礼状を書き、ざっと掃除をすませて仕事にかかる。
今日は晴れた日特有の風が南から吹きぬけて行くので、昼間の内は蚊取線香はいらないだろう。
以前知人がノンマットの電気蚊取器を持ってきてくれたが、あまりに開放的なので効果が上がらず、結局昔ながらの煙に落ち着いた。
それよりもノンマットという奴はここにはあまり似合わない。
なにかちぐはぐで不自然なのだ。
やはり、風のままに漂いながら流れて行く煙の方がここにはお似合いのようだ。
夕方から風が強まり、やがて雷雨となった。
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- 平成13年6月6日(水曜日)
【曇のち雨】
午後から雨は本降りとなった。
五月雨というには遅いのだろうが、梅雨と呼ぶには少しためらいがある。
こんな季節になると、物心ついて間もなくのある雨の日を思い出す。
亡き子をしのぶ日の寺に母の姿があった。
石段のわきの猿すべりが、降りしきる雨に濡れていた。
観音堂の扉が開け放たれ、母はその中で多勢の客の接待に忙しかった。
客達は雨を避けて堂の内外にたむろし、辺りはざわめいて妙に華やいだ雰囲気に包まれていた。
ただ客達に笑顔で応待している母の眼に、いつも涙が光っている訳が解せずに、不安と哀しさを痛みとして感じている自分がいた。
子守り代わりにあずけられたのか手にはカステラが一切乗せられていた。
それは、とても大きく重く、甘かった。
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- 平成13年6月5日(火曜日)
【晴のち曇】
午後、肖像画を学びたいという婦人が友人同伴で来室。
ちょうど下絵の修正をしていたので見学してもらう。
一区切りしたところでお茶を入れ、話を聞いてみた。
画歴はかなりあるらしく、人物画が一番好きなジャンルなのだが、どうしても納得のいく作品が描けないのだそうだ。
油彩画を数枚持参したので見てみたが、かなりレベルの高いものであった。しかし、当人はもっと高い写実性を追求したいとのこと。ここへ来るよりは、もっと基本デッサンをしっかりやる方が早道であることを諭した。
当人はいかにも残念そうにしていたが、時々見学に来る事を許すと嬉々として帰って行った。
つい情に流されるこの弱さがどうもいけない。
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- 平成13年6月4日(月曜日)
【晴】
肖像画のクライアントから具体的な指示を電話でもらったので、今の仕事が終り次第にとりかかることにする。
オークションに出品する淡彩画も合間を見て製作したいので、当分はまた休みのない日が続きそうである。
この何日かの野外スケッチのおかげで、真っ黒に日焼けした。
おかげで二の腕がヒリヒリ痛んで仕方がない。
自転車通勤のせいもあるのだろうが、あまり度が過ぎてはと思う。
それにしても季節はあまりにも早く通り過ぎて行く。
道すがらアジサイがそこかしこで咲き誇って、梅雨の兆しが辺りに立ち込め、田は水を張り、ほとんどが早苗を植えわたしていた。
人は終日野に出てゆき、谷はさんざめいている。
夏がいつの間にか来ていたのだと感じるこの頃である。
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- 平成13年6月3日(日曜日)
【晴】
今日は朝からかなり暑い日となった。
画室に着くとすぐに写生の仕度をして外に出た。
里山の寸景を2点、前回の作品への加筆が1点、国道へ出て大久保の集落へ入り、荒れた神社の石垣を写生した。
国道を佐野方面に進み、富田の町に入ったが写生に適した位置がつかめず引き返すことにした。
戻り道で国道を何度かそれて点在する集落をロケハンし、次の機会のためにそれを記録する。
暑さはますますきびしく真夏のようである。
午後3時半帰室。汗にぬれたものを脱いで着替えを済ませ、水分を充分にとって少し横になる。
南から入る風が気持ち良く、少しうとうとしたのか、気が付くと陽はかなり軟らかな感じになっていた。
今日は少し頑張り過ぎたようだ。
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- 平成13年6月2日(土曜日)
【晴夕方雷雨】
「ここに絵を描きに来られた方は初めてですね」
第二鵤木踏切へ生徒を連れて行き、レッスンをはじめたら踏切下の農家のご主人が挨拶に出て来られた。
「目障りで申し訳ありません。お邪魔にならぬようにしますので」
「どうぞどうぞごゆっくり描いてください。しかしここが絵になりますかね。この先の麦畑には時々カメラマンが来てますが」
「ええ、とても良い絵になると思いますよ。最近はこういう生活感のある風景がだんだんなくなってしまいましたから、今の内に描き残しておきたい気持ちもあるんですよ」
「そういえばこの先の遮断機のない踏切が近々閉鎖になるんですって」
「そうですか。実はその踏切をきのう写生して来たんですよ」………
急に風が起こり見上げるとすごい雲が近付いてくる。
間もなく通り雨となり、やがて雷鳴がとどろきざっと来た。
地蔵堂がまた雨をしのいでくれた。
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- 平成13年6月1日(金曜日)
【晴】
クライアントからの返事を待つ間に、近くの写生に出掛ける。
街道から山に入る小道が面白かったので描きはじめると、土地の古老が畑から上がって来て、この道の由来を聞かせてくれた。
今ではもう誰も使わなくなってしまったが、車で10分程の大久保への近道として、地元では重要な道であったそうだ。
そこから南へ300m程下ると、道は山里にぶつかり追分となっている。突き当りにはほとんど原形をとどめない石地蔵と2基の道祖神が奉られていて、そこだけ時間が止まったような空間となっていた。
少し離れて立ったままでクイックスケッチする。ここは意外に車が通るので危ない。車といってもほとんどが農作業のためのトラックだ。
山里のへりに沿った道を国道50号まで下って、坂の佇まいを歩道から時間をかけて写生する。この時間に国道沿いの歩道を歩いている人などいないので落ち着いて描ける。
日差しはかなり強く、少し日射病の症状が出て来たので急いで画室に戻り、水分を充分にとって休む。
毎年のことだが、暑さとの斗いがいよいよ始まった。
■アトリエ雑記は平成12年12月15日からスタートしました。
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